コルベットV8に等長ヘッダーはナンセンス

とあるBlogでコルベットエンジンに等長ヘッダー(EXマニ、タコ足)を付けているのを見ました。しかし実はコルベットのV8エンジンに等長のヘッダーを付けることに意味はありません。理由を説明しましょう。

V8エンジンのクランクシャフトは2種類の形式があります。シングルプレーンとダブルプレーン(クロスプレーン)です。この絵の上側がダブルプレーン、下側がシングルプレーンです。プレーンとはplane:平面という意味で、クランクピンとクランクジャーナルを結ぶ平面が一枚なのがシングルプレーン、2枚なのがダブルプレーンです。ダブルプレーンは軸方向に見ると2枚の平面が十字に交差しているのでクロスプレーンとも言います。110215-1.jpg

コルベットのV8エンジンは、ダブルプレーンを使います。シングルプレーンで有名なのはフェラーリのV8です。ダブルプレーンは振動が少ないのですが、カウンターウェイトを必要とします。シングルプレーンは4気筒エンジンのような振動がありますが、カウンターウェイトを必要としません。フェラーリがシングルプレーンを使うのは、おそらくこのためだと思います。

さて、このようなクランクシャフトを使うために、コルベットのV8エンジンの点火順は次のようになります。
1-8-4-3-6-5-7-2(LS以外のコルベットエンジン)
または
1-8-7-2-6-5-4-3(LSエンジン)

C1,C2,C3,C4と、C5,C6では点火順がこのように違うのですが、それはここでは問題ではありません。とりあえず、LSエンジンの点火順で説明を続けます。
V8エンジンの爆発間隔は90°です。(720°÷8 = 90°)
そしてGMのV8エンジンは、左バンクが奇数番、右バンクが偶数番という決まりになっています。

さて、ここでもう一度、LSエンジンの点火順を見てみると、
2-6と3-1というのがあります。偶数番または奇数番が連続しています。すなわち片バンクで2回連続して爆発しているわけです。だから片バンクだけで爆発間隔をみると、
180°- 270°- 180°- 90°
となります。片バンクだけでみると不等間隔爆発になっています。
したがって、ヘッダーを等長で造っても、そもそも爆発が等間隔ではないので意味がありません。

ちなみに、フェラーリなどのシングルプレーン・クランクの場合の爆発順は
1-8-7-2-5-4-3-6
で、偶数と奇数が交互に並んでいるので、片バンクでみると180°ごとの等間隔爆発になっていて等長ヘッダーの意味が出てきます。

ところで、じゃあダブルプレーン・クランクのV8は、排気脈動を使えないのかというと、そんなことはなく、例えばかの有名なGT40はこうしてます。
110215-2.jpg
右バンクと左バンクをまたいで、集合させています。先のコルベットのLSエンジンの例で言えば1,7,6,4と8,2,5,3でそれぞれ等長で集合させれば、180°ごとの爆発間隔となって排気脈動を使えるようになります。

しかし、この方法はスペースに余裕のあるレーシングカーしか使えません。そこで考えられるのは、マニホールドの長さを1:2:3で設定すれば良いのではないかということです。LSエンジンの例で言うと、次の爆発まで270°の間隔がある7番のマニホールドの長さを1として、180°の間隔になる1番と5番を2、90°の間隔になる3番を3の長さにすればピタリ等間隔になるように思います。がしかし、距離が伸びると流速が落ちます。しかも、流体の場合、速度低下は線形ではありません。さらに気体は圧縮性流体で、排気バルブから排気が粗密波として流れてくる非定常。単純に1:2:3では成り立ちません。これは簡単な手計算で解けるレベルではなく、高度な流体解析技術を必要とします。
というわけで、各マニホールドの長さを変えて集合部分で等間隔にするのは難しいので、排気脈動による負圧効果を期待するのはあきらめて、集合部までの距離を思いっきり長くとったロングチューブと呼ばれる形式にして排気干渉をなくすことで満足するか、あるいは排気音量規制がないドラッグレースなどであれば、いっそのこと各気筒を独立して排気してしまいます。

以上の理由でコルベットに等長ヘッダーを付けることに意味はありません。入れるならロングチューブです。
しかし、クルマは趣味のものです。性能が全てではありません。
「等長ヘッダーを入れたんだ。」
と、満足気に話している人に、等長ヘッダーが無駄であることを説明するのは無粋です。入れちゃった人にはだまっておいてあげましょう。これから入れようと思っている人がいたら、思いっきり語ってあげてください。