ビート30のテレメトリ

K4-GPのレース中、チーム監督として私が作戦指示を出しています。ここがその発令所。
椅子に座って寝ているように見えるのが私です。でも、寝ているわけではなくて、リラックスした姿勢で画面を眺めているのです。なにしろ10時間の長丁場ですから、楽にしていないと持ちません。
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見ている情報はこれ。
左上のモニタからは、車載カメラの映像、エンジン回転数、選択しているギア、速度、燃料消費量、走行距離。
右上のモニタは富士スピードウェイから送られてくるラップタイム、順位、周回数。
左下のノートPCは、燃料消費量計算とドライバー交代、給油タイミングの作戦チャート。
右下のノートPCは、車載GPS情報を元にした走行中の位置と速度、ラップタイム。それと、ドライバーへのテキストメッセージ送信。
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車両の運転席は、こうなっています。
大きな液晶画面には、ラップタイムと現在時刻、それからピットから送られるテキストメッセージが表示されます。ドライバー側からメッセージを送る手段は、ハンドサイン。手振りをすれば、車載カメラで読み取ることができます。ドライバーがピットに伝える情報としては、「了解した」と「ピットに入る」くらいなので、手振りだけで全然問題ありません。
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実際に、どんな風に動いているのかを見せるため、動画を撮ってみました。

通信はデータ通信SIMを使って、インターネット経由です。カメラ映像はVPNによる接続、GPSデータはサーバーを経由します。カメラ映像がカクカクしてるいのは、ピット内のデータ通信の電波強度が弱くて、通信速度が低いので、FPSを落としているからです。条件が良ければ、ヌルヌル動きます。

K4-GPに参加を始めた10年前は、ピットロードのサインエリアに二人が常駐していて、ストップウォッチでタイムを計測し、ボードを使ってピットサインを送りました。消費燃料はピットインのタイミングでチェックする計器盤の燃料系の針の位置と、前日の練習走行日で計測した燃料消費量から推測していました。申し訳程度の日よけを設置したサインエリアはとても暑く、サインエリアとピット間を確認のため何度も往復するというのは、とても過酷で危険な作業でした。
それが今では、サインエリアに人は置いていません。サインボードを出すこともありません。クルマが戻ってこなくても、即座に止まった場所がわかります。どこそこのコーナーで事故、と連絡が入る前に、車両がその位置を通過すれば、車載カメラから事故がわかります。10年前とは雲泥の差。これが10年間の進歩です。
この写真で、ノートPCを持っているのが私ですが、その後ろのサインエリアにたくさんのテントが立っています。でも、うちのチームは、もうこのサインエリアにテントは設置しておらず人も置いていません。
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おかげで、私はサーキットにいても、コース上を走るクルマを実際に見ることはありません。サーキットにいるのに、レース中のクルマを見ないというのは不思議な感じがします。

今回、このシステムが最も良く機能したのが、最終給油回のタイミング。
車載カメラで黄旗を確認。その先で2台以上のクルマがコース上に止まっているのが見えました。この事故でSCが入るようなら、予定を早めて給油しても大丈夫かどうか、計算。
ピットロードをSCが走っていくのが見えたので、すぐにテキストメッセージで給油を指示。これにより、どこのチームよりも早く給油所に入ることが出来、給油+ドライバー交代で一つも順位を落とすことなく、コースに復帰という、うちのチームとしては前代未聞の記録を作りました。
その後、ピットでの判断が遅かったり、ホームストレートを通過してピットサインを確認してから給油所に向かうクルマなどで給油所が混雑して、うちのクルマは勝手に7~8くらい順位が上がっていきました。

燃料ルールが複雑な耐久レースの場合、ただラップタイムを短縮するだけではなくて、こういうところで工夫する楽しみがあるということで、ピットで待機している人も、走り終わった人も、お手伝いの人も、皆がレースを楽しめます。